「プロが選ぶ日本一のホテル」、おもてなしで有名な石川・和倉温泉「加賀屋」。 北陸新幹線開業の年(2015年)にオープンした「別邸・松乃碧(まつのみどり)」に行ってきました。 加賀屋が大衆的・家族向けの大型旅館なのに対して、「別邸 松乃碧」は小学生以下NG、大人限定のラグジュアリー宿です。 七尾湾を抱く景勝地に建つ、贅沢な立地。「昭和天皇お手植えの松」に出迎えられてエントランスに足を踏み入れると、そこは杉の原木が立ち並ぶ風雅な美術館。 これは比喩でもなんでもありません。宿泊客以外は入場料が必要な、れっきとした地元工芸品のミュージアムでもあるのです。 柱にも壁にも廊下にも、淡い光に照らされた輪島塗や九谷焼の銘品が。それもエントランスだけかと思ったら、ラウンジにも大浴場への廊下にも…。まさに全館が美術館みたい。 私が泊まりに来たのは、芸術の館だったようです。 ラウンジのソファーに腰を下ろし、窓の外の風景を楽しみます。 有名な屏風絵をモチーフにしたという松の木の庭園の向こうに見えるのは、冬場でも波の穏やかな七尾湾と白くかすむ能登島。 水面には、かすかに揺れる牡蠣棚と、どこからともなく現れたモーターボートのまっすぐな引き波。眼下に広がる絶景は、まるで雄大な自然と人の営みが織りなす絵巻物のようでした。 ここは、宿泊料金に食事代や施設の利用料などが含まれる「オール・インクルーシブ」を採用した、北陸では初めての宿だそうです。 ロビーでのお茶・スイーツ、湯上りラウンジ、食事中のお酒、食後のバーラウンジでのお酒と軽食…すべて、自由に楽しめます。 しかも、提供されのは、左党が喜ぶ一流銘柄の日本酒や、北陸ならではの新鮮な魚介類など。 縁のない真四角の琉球畳が鮮やかな客室には、平安時代の公家の寝床を思わせる几帳仕切りの“ベッドルーム”と、落ち着いた雰囲気のソファー。 和と洋に南国のスパイスを散りばめた、これぞ「和風モダン」なのでしょう。ここから眺める夜の海は、日本海らしい秘めた情念を感じさせてくれました。 庭園と海が見えるお茶室で、着物姿の「亭主」の女性にお茶を点てていただきました。しとやかな手さばきと上品な所作に、思わず見とれてしまい、日本人に生まれた幸せをかみしめました。 お茶室の天井は、歴史的な建物から移築したそうです。ここでのお茶・お菓子代も「オールインクルーシブ」に含まれています。 夕食では、北陸の地酒の飲み比べを。 10月に訪問したのですが、食べる前から季節を感じられる盛り付け。 日本海の恵みを感じられるお料理でした。 こちらは大浴場(一休様よりお写真お借りしました)。 日本海の静かな海を見渡す絶景露天風呂…。遠くには能登島への橋も見えます。 湯加減も長湯できるちょうどいい温度で、ついつい長風呂してしまいました。 お風呂の後は、美術品に囲まれた湯上りラウンジで一休み。 ここで頂いた能登の牛乳が濃厚でとてもおいしかった・・・ 今回は、離れて暮らす母との二人旅。 積もる話に花を咲かせていると、ふと頭の中にドビュッシーの「アラベスク第1番」が流れました。宿の公式サイトにも使われている、私の大好きなピアノ曲。有 名なアルペジオの旋律が、寄せては返す波のようであり、走馬灯のように現れては霞む思い出のようにも聞こえます。 そう、ここは、愛する家族や親しい友と、心穏やかに来し方を振り返る、ドビュッシーの似合う大人の宿なのです。